許された危険:被害者遺族vs危険許容者(国)、危険製造者(三菱自)訴訟

新聞記事からわかることを前提に。

タイヤ脱落母子死傷、三菱自への制裁慰謝料認めず
 横浜市瀬谷区で2002年1月に起きた三菱自動車製大型トレーラーのタイヤ脱落による母子3人死傷事故で、死亡した主婦岡本紫穂さん(当時29歳)の母、増田陽子さん(56)が、同社と国に約1億6550万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が18日、横浜地裁であった。
 山本博裁判長(柴田寛之裁判長代読)は、同社に550万円の支払いを命じる判決を言い渡したが、同社に対する制裁的慰謝料は認めなかった。国に対しても責任を認めなかった。
 この訴訟で、原告側は「国は三菱側にリコールを勧告するなど適切な行政指導をすべきだった」と主張したほか、「三菱側は事故の発生を予見していたのに、企業利益の追求に走った」などとして再発防止のため制裁的慰謝料1億円を求めた。
 これに対し、三菱側は裁判途中で「整備不良が原因」とする主張を撤回、設計上の欠陥は認めたが、制裁的慰謝料については「否定する最高裁判例がある」と反論。国側は「三菱側から虚偽の報告を受けており、設計上の欠陥を認識するのは不可能だった」としていた。
(読売新聞) - 4月18日18時53分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060418-00000111-yom-soci

制裁的慰謝料(懲罰的慰謝料)については、いろいろ争いのあるところですが、
最高裁判所判例を示しておくと、

最二小判平成9年7月11日民集第51巻6号2573頁(平成5年(オ)第1762号)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=25495&hanreiKbn=01


       主 文
上告人の被上告人萬世工業株式会社に対する上告を棄却する。
上告人の被上告人aに対する上告を却下する。
上告費用は上告人の負担とする。


       理 由
一 上告人の被上告会社に対する上告について
上告代理人櫻木武、同佐藤典子の上告理由について
1 本件は、上告人がアメリカ合衆国カリフォルニア州裁判所の判決についての執行判決を求める訴えであるところ、原審が適法に確定した事実等は、次のとおりである。
(一) カリフォルニア州民法典には、契約に起因しない義務の違反を理由とする訴訟において、被告に欺罔行為などがあったとされた場合、原告は、実際に生じた損害の賠償に加えて、見せしめと被告に対する制裁のための損害賠償を受けることができる旨の懲罰的損害賠償に関する規定(三二九四条)が置かれている。
(二) カリフォルニア州上位裁判所は、昭和五七年(一九八二年)五月一九日、上告人と被上告会社の子会社である同州法人マルマン・インテグレイテッド・サーキット・インクとの間の賃貸借契約締結について被上告人らが上告人に対して欺罔行為を行ったことを理由として、被上告人らに対し、補償的損害賠償として四二万五二五一ドル及び訴訟費用として四万〇一〇四ドル七一セントを支払うよう命ずるとともに、被上告会社に対し、これに加えて、右規定に基づく懲罰的損害賠償として一一二万五〇〇〇ドルを上告人に支払うよう命ずる判決(以下「本件外国判決」という。)を言い渡した。
(三) 上告人及び被上告人らは、本件外国判決に対してカリフォルニア州控訴裁判所に控訴したが、同裁判所は、昭和六二年(一九八七年)五月一二日、各控訴を棄却する旨の判決を言い渡し、本件外国判決が確定した。
2(一) 執行判決を求める訴えにおいては、外国裁判所の判決が民訴法二〇〇条各号に掲げる条件を具備するかどうかが審理されるが(民事執行法二四条三項)、民訴法二〇〇条三号は、外国裁判所の判決が我が国における公の秩序又は善良の風俗に反しないことを条件としている。外国裁判所の判決が我が国の採用していない制度に基づく内容を含むからといって、その一事をもって直ちに右条件を満たさないというこ
とはできないが、それが我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものと認められる場合には、その外国判決は右法条にいう公の秩序に反するというべきである。
(二) カリフォルニア州民法典の定める懲罰的損害賠償(以下、単に「懲罰的損害賠償」という。)の制度は、悪性の強い行為をした加害者に対し、実際に生じた損害の賠償に加えて、さらに賠償金の支払を命ずることにより、加害者に制裁を加え、かつ、将来における同様の行為を抑止しようとするものであることが明らかであって、その目的からすると、むしろ我が国における罰金等の刑罰とほぼ同様の意義を有するものということができる。これに対し、我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり(最高裁昭和六三年(オ)第一七四九号平成五年三月二四日大法廷判決・民集四七巻四号三〇三九頁参照)、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではない。もっとも、加害者に対して損害賠償義務を課することによって、結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても、それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的、副次的な効果にすぎず、加害者に対する制裁及び一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである。我が国においては・加害者に対して制裁を科し、将来の同様の行為を抑止することは、刑事上又は行政上の制裁にゆだねられているのである。そうしてみると、不法行為の当事者間において、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、右に見た我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであると認められる。
(三) したがって、本件外国判決のうち、補償的損害賠償及び訴訟費用に加えて、見せしめと制裁のために被上告会社に対し懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分は、我が国の公の秩序に反するから、その効力を有しないものとしなければならない。
3 以上によれば、本件外国判決のうち懲罰的損害賠償としての金員の支払を命ずる部分について執行判決の請求を棄却すべきものとした原審の判断は、是認することができる。論旨は、原判決が憲法前文及び日本国とアメリカ合衆国との間の友好通商航海条約六条一項に違背するという点も含め、独自の見解に立って原審の法令の解釈適用を非難するものにすぎず、採用することができない。
二 上告人の被上告人aに対する上告について
上告人の被上告人aに対する本件訴えは、本件外国判決のうち、補償的損害賠償及び訴訟費用の支払を命ずる部分並びに右金員に対する利息の支払について、執行判決を求めるものであるところ、原判決は、右請求を全部認容した第一審判決に対する控訴を棄却したものであるから、上告人には上告の利益がなく、被上告人aに対する上告は、不適法として却下すべきものである。
よって、民訴法四〇一条、三九九条ノ三、三九九条一項一号、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 大 西 勝 也
裁判官 根 岸 重 治
裁判官 河 合 伸 一
裁判官 福 田 博

となっています(下線部参照、筆者)。
この点については、これ以上の言及を控えるとして、気になったのは、対国の部分

・この訴訟で、原告側は「国は三菱側にリコールを勧告するなど適切な行政指導をすべきだった」と主張した
・国に対しても責任を認めなかった。
・国側は「三菱側から虚偽の報告を受けており、設計上の欠陥を認識するのは不可能だった」としていた。

判決文をみないとなんともいえないところもありますが、この感じからいくと、
耐震偽装も騙した偽装した姉歯氏が悪いということで、検査機関や国の責任は否定されるという方向になるんでしょうか?
危険を許容するという自動車行政ですらこの判断ですから、耐震制確保はより責任が否定されそうに感じます。
国の責任を否定した論理が気になるところ。
また、否定されるというのであれば、偽装させないことを担保するという制度が立法上要求されるということにるはずで、
姉歯氏への証人喚問という国政調査権を発動した衆議院は証人喚問の結果どういう立法措置をとるのか、
このままでいくいと、あの一連の国会審理は犯人探しという国政調査権を逸脱したものだったと言わざるを得なくように思います。
話はそれましたが…。