刑事事件とカラオケ法理

著作権違反での逮捕事例(2)/刑事事件としての著作権違反と民事事件としての著作権侵害 - 言いたい放題の一審判決がありました。

著作権料不払い>元ライブハウス経営者に有罪 名古屋地裁
 著作権料を支払わずに飲食店で生演奏をさせたとして、著作権法違反の罪に問われた名古屋市中区大須2、元ライブハウス経営、田中まり子被告(45)に対し、名古屋地裁は19日、懲役1年、執行猶予3年を、同被告が社長を務めていた「ワールド・コーポレーション」に求刑通り罰金80万円をそれぞれ言い渡した。
毎日新聞) - 5月19日15時19分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060519-00000068-mai-soci

まだまだ頭の中で整理できていませんし、判決文も読んでみたいところですが、少し思うところを。
これって、個人(社長)と会社が起訴されていたんですね。
犯罪主体は誰なんでしょう?
おそらく社長(法人代表者)が犯罪主体で、両罰規定適用で、会社に罰金ではないかと。
ただ、本件で著作物を現実に演奏したのは演奏者。
演奏者から、いわゆるカラオケ法理で利用責任主体性を転換するのであれば、
利益帰属は法人たる会社そのものというべきであって、個人に帰属させるは困難ではないかと(私見)。
本来会社が主体だが、もし会社と個人を実質的に同一視するというのであれば、両罰適用は実質的に二重処罰になる。
(少なくとも、本件で代表者を処罰するのであれば、法人処罰は否定すべき)
おそらく民事事件(特に差し止め請求)であれば、法人の責任を認めれば足りる(私見では、責任主体は会社であるべき)。
刑事事件の場合、法人の犯罪能力(否定)論ともかかわってくると思うのだが、
かなり技巧的にならざるを得ず、ここまで拡張的にカラオケ法理を適用することは
罪刑法定主義の観点から問題があるように思うのである。
前回、

(ただし、記事からみえる本事例についてあてはめることについては不当とは思いません。)

としたが、上記のようなわけで「本事例については不当」と改めたい。
刑事事件については、罪刑法定主義という憲法上の要請が働く以上、
カラオケ法理の適用については、より慎重であるべきように思う。
もちろん上記私見によれば、法人経営の場合と個人経営の場合と不均衡と思えなくはない。
しかし、そうであれば、むしろいずれも処罰を否定すべきであり、不都合は立法措置で補うべきであろう。


ところで、上記判決の2日前、

「464.jp」運営者に有罪判決
2006年05月17日 20時29分 更新
 人気漫画を違法ネット公開したとして著作権法違反の罪に問われていた「464.jp」運営者ら3人に対する判決公判が5月17日、福岡地裁であり、主犯格の東京都大田区のネット喫茶経営の男(52)を懲役2年執行猶予3年とするなど、それぞれ有罪判決が言い渡された。
(以下、略)
[ITmedia]
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0605/17/news112.html

という判決もあった。
この漫画喫茶事案が、典型的な刑事事案。
もし、これが法人(に準ずるもの含む)なら、会社に両罰規定適用しうることになる。
代表者、従業員ですら、利益帰属主体たる法人に犯罪を課すには両罰規定が必要なのである。
もちろん、両罰規定は非自然人に刑罰を科すための規定であるといえば、それまでだが、
価値判断としては、やはり不均衡さが残る。


まだまだ整理中なのだが、判決文が公表されれば、じっくり考えてみたい事件である。