じゃあ、上告を受理しなかった最高裁第三小法廷の裁判官はバカと書いたらこれも名誉毀損になるの?

「バカ市長」は名誉棄損 最高裁で確定
7月15日16時43分配信 産経新聞
 滋賀県彦根市獅山向洋市長が週刊新潮の内容で名誉を傷つけられたとして、同誌を発行する新潮社に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(藤田宙靖裁判長)は15日、双方の上告を受理しない決定をした。新潮社に22万円の支払いを命じた2審大阪高裁判決が確定した。
 新潮社は平成18年11月9日号の週刊新潮で、「『飲酒事故』の報告義務は憲法違反と言った『バカ市長』」との見出しの記事を掲載。1審大津地裁は市長側の請求を退けたが、2審は「評論の域を逸脱しており名誉棄損に当たる」と判断していた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080715-00000939-san-soci

この記事をよむと、「バカ」と書いたことが名誉毀損ということになるように感じますが(感じなければいいです)、必ずしもそうではないです。
原審(大阪高裁 裁判長裁判官 横田勝年 裁判官 東畑良雄 裁判官 小林秀和)の判断の当該部分は、

 1 争点1(本件記事についての不法行為の成否)
  (6) 本件記事が,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱していることについて
   エ しかしながら,本件記事における具体的な表現方法につき検討するに,上記(1) イで検討したとおり,本件記事中には,控訴人を指して「○○のバカ市長」と記載し,控訴人発言につき,「そのバカさ加減に呆れ返ってしまった。」とか,「妄言を繰り返す。」とか,「「バカにつける薬」は,未だ,発見されていない。」とする本件表現が存在する。
 本件表現方法は,飲酒事故報告を報告義務の対象から除外した点につき,その処置につき厳しく非難するとともに,そのことから控訴人において○○市長としての資質に欠ける旨,厳しく非難,論評する趣旨であるものの,このようなバカという言葉が使用されている前後の文脈等を考え合わせれば,その表現内容は,控訴人の○○市長としての資質に欠ける旨の論評の範囲を超えて,控訴人という人物そのものが,おろかな愚人であり,その矯正が不可能である旨,皮肉を交えて,表現しているのであり,いわば,控訴人の全人格自体を否定し,或いは控訴人を愚人としていわゆるバカ扱いにした記載となっているのであり,意見ないし論評としての域を逸脱したものであって,違法な記載であるといわなければならない。
 2 争点(2)(本件見出し及び目次についての不法行為の成否)
  (3) しかしながら,この「○○のバカ市長」との表現は,上記1(6)と同様,控訴人の○○市長としての資質に欠ける旨の論評の範囲を超えて,控訴人という人物そのものが,おろかな愚人である旨,控訴人の全人格自体を否定したととれる内容であり,意見ないし論評としての域を逸脱したものであって,違法な記載であり,名誉毀損不法行為を構成するといわなければならない。
 3 争点(3)(本件広告についての不法行為の成否)
  (3) しかしながら,この「○○のバカ市長」との表現は,上記1(6)と同様,控訴人の ○○市長としての資質に欠ける旨の論評の範囲を超えて,控訴人という人物そのものが,おろかな愚人である旨,控訴人の全人格自体を否定したととれる内容であり,意見ないし論評としての域を逸脱したものであって,違法な記載であり,名誉毀損不法行為を構成するといわなければならない。
(WestlawJapanより)

と判示する。
判決文を素直によめば、単に「バカ」と評したから、というのではなく、前後の文脈から全人格を否定したといえるから、ということになる。
上記(1)イには、前後の文脈について、上記判例の引用に際してあたったWestlawJapanには掲載されておらず、当該雑誌か別の資料をあたるほかないが、
単に事実を摘示して「バカ市長」というだけだったらいいのだろうか。また、見出し、広告についても同様の理論を採用しており、最小同一部分を対象に考えればよいということか?
(むしろ、見出し広告で評論部分をことさらに強調したことを違法ということもありえたのかもしれないし、個人的にはこっちの方がわかりよい。)
そもそも、全人格を否定しているという評価がよかったのか、裁判所によるかかる結論を導く認定?評価?が憲法上違反なのではないか?ということも検討の余地はあろう。
さらに、公人(しかも被選挙者である市長)は、全人格的にそれにふさわしいかどうか、判断されてもおかしくない人物である。
全人格を否定したからといって、裁判所に非難される謂われはなく、これもまた適法な評論というべきであろう。
報告義務が憲法違反と発言したということのみを前提事実としてそこまで評したという理解もできなくはないだろうが、そこまでは読めない。
そうすると、やはり「○○のバカ市長」、控訴人発言につき、「そのバカさ加減に呆れ返ってしまった。」、「妄言を繰り返す。」、
「「バカにつける薬」は,未だ,発見されていない。」と繰り返し記述したことが、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱していると判断された要因だろう。
ただ、一般論として「人身攻撃に及ぶ」のはいけないとしても、本件記事の内容それ自体が「人身攻撃に及ぶ」とまで断じれるかはなお疑問が残るが、
(もっとも原典をあたっていないのでなんともいえない部分はあるが。)、見出し目次の書き方から「人身攻撃」性を導いて記事本体も人身攻撃だ、との構成の方がわかりよかったように思う。
ちなみに、本論とは直接関係ないが、

 (ア) 控訴人は,京都大学法学部を卒業し,司法試験を2回目で合格して検事に任官し,その後,弁護士に転身し,市長に2回当選した経歴と実績を有する法曹出身の市長であり,バカな人物が○○市長の職にあるという事実はない。

との控訴人の主張があった。どこまでまじめにしているのかはわからないし、代理人の主張かもしれないが、なんだかなぁと思う主張ではあるように思う。


ところで、被控訴人は上告受理の申立てしかしなかったの?上告はしなかったの?
http://www.courts.go.jp/hiroshima-h/saiban/tetuzuki/zyokokutetuzuki.html


で、上告を受理しなかった最高裁第三小法廷の裁判官はバカと書いたらこれも名誉毀損になるのか?
おそらくならないんでしょうね。この評論をどう思うかってだけでしょう。最高裁判所裁判官は、国民審査の対象ですしねぇ
ただ、バカ、ボケ、カス、とかいったら人身攻撃でだめになるかもしれません。(もっとも最高裁判事が事実上訴えるのかということは別論)


注:「上告を受理しなかった最高裁第三小法廷の裁判官はバカ」はあくまでも例文です。