国歌と著作権

街宣車の「君が代」を聞いてふと思った。
この「君が代」大音量再生行為の著作権法上の問題点如何。
ということで、国歌と著作権について考えてみたい。
結論を言ってしまえば、上記紹介事例は、著作権法上適法でしょう。以下、順に検討します。


まず、そもそも「君が代」自体に著作権法上の保護が及ぶか。

国旗及び国歌に関する法律(平成十一年八月十三日法律第百二十七号)
(国歌)
第二条  国歌は、君が代とする。
2  君が代の歌詞及び楽曲は、別記第二のとおりとする。


別記第二
 (第二条関係)
  君が代の歌詞及び楽曲
一 歌詞
    君が代は 千代に八千代に さざれ石の いわおとなりて こけのむすまで
二 楽曲 
    君が代
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%8d%91%8a%f8%8b%79%82%d1&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=H11HO127&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

とある。

古     歌 
林 広守 作曲

詩の方は「古歌」(古今和歌集らしい)だから、とっくの昔に保護期間を終了している。
(そもそも保護された事実はないだろうが…。)
では、林広守氏作曲の曲はというと、この方は(天保2年(1831年)生〜明治29年(1896年)没)
ということなので、曲の方も著作者の死後100年以上ということで保護期間を終了している。
さらに、林氏の作曲を海軍省の軍楽隊教師のドイツ人のエッケルト氏が編曲したそうです。
JASRACでも、作曲「林広守」編曲「ECKERT FRANZ」とあります。 
http://www2.jasrac.or.jp/cgi-bin/db2www/jwid040.d2w/detail?L_SakC=02249715
が、エッケルト氏も1916年8月6日没と死後90年近くたっており、
君が代」自体の著作権の保護は消滅しているということになります。

参考文献
http://www.d-score.com/ar/A02093003.html
http://www.h7.dion.ne.jp/~speed/japan.htm
http://kokusairinri.org/database/09.html

したがって、この歌詞をホームページに掲載するのも自由ですし、
自分でMIDI音源等でホームページに掲載することも可能です。


が、街宣車君が代を再生する行為については少し考えなければならないことになります。
それはどのようなテープ(CDでも、MDでもいいが)を再生しているのかということ。
君が代のテープを買ってきた場合、そのテープ独自の編曲がなされていたりしますし、
その君が代を演奏している人がいるわけです。
その編曲者にも権利は発生しますし、演奏している人(実演家)にも権利が発生します。
また、レコード製作者の権利などというものあります。
したがって、(保護期間内であれば)そのようなものをホームページに
掲載することはできないということになります。(詳細割愛します。)


しかし、街宣車の行為は、非営利無料の再生行為なので、
編曲者との関係で言えば、著作権法第38条で、
実演家、レコード製作者の権利は、そもそも再生行為には及ばないので、
結論としては、適法と考えられます。
ただし、購入したテープをダビングしたものである場合には、複製権侵害は別途問題になります。


では、編曲者などのその他権利者の権利が及ぶ場合には、国歌とはいえ、
利用することはできないのか?ということが問題になりますが、この場合は、
違法と考えざるを得ないでしょう。
また、このように考えても「君が代」そのものに権利が及ばない以上、
それを自由に使えるわけですから、問題はないように思われます。
日本国国歌である「君が代」(その是非、合憲性には立ち入らない)については、
このような考えでいいように思われ、このことは、多くの原著作物の権利消滅済み外国国歌にあてはまる。


もっとも、新たに国歌を策定する場合には、著作権の問題をクリアする必要がある。
また、最近の外国国歌では、作詞者作曲者の権利が消滅していない場合もある。
このような場合についてはどう考えるべきなのか。
まず、問題になるのが、

(権利の目的とならない著作物)
十三条  次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
一  憲法その他の法令

の規定である。
まず、「国旗及び国歌に関する法律」を改正して新国歌を制定した場合についてはどうか。
著作権法13条の趣旨は、「法令…などその性質上国民に広く開放して利用されるべき」だからと
説明されている。(加戸守行『著作権法逐条講義』四訂新版136頁、著作権情報センター,2003)
そうだとすれば、国歌、(国旗の著作物性を認めても)国旗も含め、
同条によりそもそも保護の対象とならない、ということができる。
なお、この規定は外国法令にも適用される(前掲加戸)。
したがって、国旗国歌が法令で定められているのであれば、
作詞者作曲者の権利が消滅していなければ、自由に利用できるということになろう。
ただし、あくまで法令上の原作詞作曲だけである。
日本語に翻訳された訳詞や編曲されたものは含まれず、「君が代」の編曲の場合同様の問題があることに、
注意する必要がある。


次に法令に定めのない場合はどうか?
この場合、そもそも国歌国旗なのかよくわからないが、日本の過去の実例からは、
法令で定めることなく、国旗国歌として用いられている場合もあるものと思われる。
(やはり、そのことのそもそも適法性等はここでは考慮しない。)
限界事例ではあるが、著作権法の趣旨からすれば、同様に考えてよいように思われる。
大使館なりに問い合わせる方が無難ではあろうが…。


ここまで日本国著作権法上の取扱いをみてきた。
条約まで検討してないが、簡単には関する記述を見つけられなかったので、今回は保留ということで。
また、国歌についての記述は国内法令では国旗国歌法しかないが、
国旗については、不競法や商標法等に記述がみられ、著作権法以外での問題が生じうるので、
注意が必要である。最後に一部紹介しておく。

刑法(明治四十年四月二十四日法律第四十五号)(外国国章損壊等)
第九十二条
 外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。

不正競争防止法(平成五年五月十九日法律第四十七号)
(外国の国旗等の商業上の使用禁止)
第九条
 何人も、外国の国旗若しくは国の紋章その他の記章であって経済産業省令で定めるもの(以下「外国国旗等」という。)と同一若しくは類似のもの(以下「外国国旗等類似記章」という。)を商標として使用し、又は外国国旗等類似記章を商標として使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくは外国国旗等類似記章を商標として使用して役務を提供してはならない。ただし、その外国国旗等の使用の許可(許可に類する行政処分を含む。以下同じ。)を行う権限を有する外国の官庁の許可を受けたときは、この限りでない。
2項以下、略

商標法(昭和三十四年四月十三日法律第百二十七号)
(商標登録を受けることができない商標)
第四条
 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
一 国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標
二 パリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であつて、経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標