放送局の同録

先日某局アナが他局の番組内容をコメントするに際して、
「生では見ていないが、局での同録(同時録画)を見た」と言っていた。
これって私的複製ではないよね?権利処理してるのかなぁ?相互協定とか?
放送局の自社同録はわかるんだけど、他局の放送についてはどうなの?
この場合、複製主体は放送局であるので、私的複製の余地はないはずである。
とすれば、何らかの許諾が必要なように思うのだが…。形式論としては。
まさか、みんなお互い様で黙認ってことなのかなぁ?
ただ、そういう会社に著作権云々いわれても説得力はない。


と話はかわるが、放送局の権利処理について少し思うところを。
放送局の自社同録については、法定録画といわれる録画もある。
こういうシステム(http://www.ktvs.co.jp/sniper/sniper.html)などでしているようである。
そして、こういう規定がある。

放送法(昭和二十五年五月二日法律第百三十二号)
(放送番組の保存)
第五条 放送事業者は、当該放送番組の放送後三箇月間(前条第一項の規定による訂正又は取消しの放送の請求があつた放送について、その請求に係る事案が三箇月を超えて継続する場合は、六箇月を超えない範囲内において当該事案が継続する期間)は、政令で定めるところにより、放送番組の内容を放送後において審議機関又は同条の規定による訂正若しくは取消しの放送の関係者が視聴その他の方法により確認することができるように放送番組を保存しなければならない。


放送法施行令(昭和二十五年五月二十五日政令第百六十三号)
(放送番組の保存)
第一条  放送法 (以下「法」という。)第五条の規定による放送番組の保存は、次に掲げる放送番組(放送大学学園法(平成十四年法律第百五十六号)第三条に規定する放送大学学園(以下「学園」という。)及び法第三条の五に規定する放送事業者にあつては、第二号に掲げる放送番組を除く。)につき、録音又は録画をした物を保存する方法によつてしなければならない。
 一 経済市況、自然事象及びスポーツに関する時事に関する事項その他総務省令で定める事項のみを内容とする放送番組以外の放送番組
 二 法第三条の四第一項に規定する放送番組審議機関(以下「審議機関」という。)が放送番組の内容を確認することができるように要求した放送番組
 三 法第四条第一項の規定による訂正又は取消しの放送の放送番組

著作権法(昭和四十五年五月六日法律第四十八号)
(放送事業者等による一時的固定)
第四十四条  放送事業者は、第二十三条第一項に規定する権利を害することなく放送することができる著作物を、自己の放送のために、自己の手段又は当該著作物を同じく放送することができる他の放送事業者の手段により、一時的に録音し、又は録画することができる。
2  有線放送事業者は、第二十三条第一項に規定する権利を害することなく有線放送することができる著作物を、自己の有線放送(放送を受信して行うものを除く。)のために、自己の手段により、一時的に録音し、又は録画することができる。
3  前二項の規定により作成された録音物又は録画物は、録音又は録画の後六月(その期間内に当該録音物又は録画物を用いてする放送又は有線放送があつたときは、その放送又は有線放送の後六月)を超えて保存することができない。ただし、政令で定めるところにより公的な記録保存所において保存する場合は、この限りでない。

放送法5条・著作権法44条については、

一次的固定物は放送等の後の廃棄すべき性格のものであるが、ネットワークにおける利用期間や放送法第5条、同施行令第1条による放送番組
の3か月間保存義務(訂正・取消の請求があった放送については6か月)などを勘案し、第44条第3項の規定により、「録画録音の後6か月」、または録画録音の後6か月以内において当該録音録画物を用いて行った放送があれば、その「放送等の後6か月」を経過するまで保存できる。この期間を超えて保存した場合は、第49条第1項第2号の規定により、他の正当な理由がない限り権利侵害となる。
作花文雄『詳解著作権法 第3版』371-372頁(ぎょうせい,2004)

放送法は、放送番組の保存義務を規定し、その方法については同法施行令が定めている。
それによれば、「放送番組につき、録音又は録画をした物を保存する方法」である。
「録音又は録画をした物」について、放送前テープ(一時固定のために録音録画したもの)か、
放送した番組を改めて録音録画するのか区別していない。
生放送であれば前者だけでは「放送番組」とはならないことを考えると後者を含むと考えることはできる。
ただ、そうすると著作権法44条は固定のための録画を認めているにすぎないのだから、
たとえば生放送中に固定したものを放映した場合には、番組を保存するためには、放送を録画する必要がある。
44条を拡張して理解するか、放送法を実質的な権利制限規定と解するかは議論の余地があるように思うが、
いずれにせよ放送番組を自社が録音・録画することは、問題ないというべきである。


ただ、録画した番組を民放がスポンサー提出するような場合には、複製処理しておく必要がある。
もちろん、放送権処理と同時に複製権処理もしていれば、問題ないが、
44条は放送権者と複製権者とが異なる場合に特に意義があることからすれば、
常にそうとはいえず、合理的意思の内容として解釈することも困難な場合があろう。


放送局が気にするべき条文で、一般人が考えることが少ない条文ではあるが、
私的複製の範囲をめぐって「録画ネット」「選撮見録」で隣接権者として騒ぐ放送局が、
放送素材の著作権について、どのように権利処理しているのか、ということは非常に気になるところである。


イメージとして、放送局には放送したテープのライブラリーがある。
もし、その放送番組が自社が著作者であったり権利を譲り受けた著作物でのみ構成されている場合には問題ない。
しかし、借用著作物も含まれており、放送権処理していない場合には、一定期間を超えて保存していることは、
法文を形式的に理解すれば、違法ということになるのである。
実際、テレビ局がどうしているのか?ということには筆者にはわからないし、
そのように形式的に理解することが本当に文化の発展に寄与するという観点からいいのかというと疑問に感じる。
ただ、放送局の著作権理解を前提にすれば、厳格に理解するべきであり、
放送権処理のみしていない著作物を含む番組の保存は法定期間を超えると違法ということになる。


実務としては、事前に放送権処理のみならず、(保存のための)複製権処理もしているのだろうか?
放送権者と複製権者が同一の場合には、それは容易だし、放送権の内容によっては(法定期間以上の)複製権処理を
合理的意思解釈として認められる場合があろうし、明確に複製権処理もできるだろう。
是非とも放送局の著作権処理実務者に聞いてみたい。権利者側のJASRACに聞いてみるのも早いのかも知れないが…。


マニアックな条文なので、理解違いがあればご指摘ください。