喋り足りない?井上薫判事vs浅生重機横浜地裁所長

もう1ヶ月前のことだが、読売新聞の記事に

「司法のしゃべりすぎ」の判事「判決短すぎ」減点評価
(読売新聞) - 10月31日3時7分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051031-00000101-yom-soci

というのがあった。この記事に関するコメントを書きかけていてそのままになっていたのだが…。

 結論と無関係な記述は判決文から省くべきだと主張する「司法のしゃべりすぎ」の著書で知られる横浜地裁井上薫判事(50)が、上司から「判決理由が短すぎる」とのマイナス評価を受け、「裁判官の独立を侵害された」とする不服申立書を同地裁に提出していたことが30日、分かった。
 今年12月に最高裁の諮問委員会が、来春に任期切れとなる井上判事の再任の可否を判断する予定で、審議の行方が注目される。
 裁判官の任期は憲法80条で10年と定められ、任期切れを迎えるたびに再任するかどうか審査される。外部の有識者らによる「下級裁判所裁判官指名諮問委員会」(委員長・奥田昌道元最高裁判事)が再任についての意見を出し、最高裁が最終決定するが、再任希望者の所属する裁判所の所長(高裁は長官)が毎年行う人事評価が重要な判断材料となる。

憲法の規定する10年ごとの「再任」の法的性質論とも関係するところだけれども、
どのような事項を再任の基礎となる人事評価とすべきかは難しい。

 関係者によると、横浜地裁の浅生重機所長(63)は昨年11月、井上判事に判決理由の短さを指摘し、改善を勧告。今年7月の個人面談を踏まえた人事評価書で「訴訟当事者から判決文について不満が表明されているのに、改善が見られない」などと記載した。
 諮問委には既にこうした評価が伝えられており、200人弱に上る今回の再任希望者の中から、井上判事を重点審議対象の1人に選び、現在、再任の可否を検討しているとみられる。
 これに対し、井上判事は9月中旬、人事評価への不服申立書を地裁に提出。「判決文の短さを理由にマイナス評価をするのは、裁判官の独立を定めた憲法に反する」と主張した。しかし、同所長は同月末、「評価内容は変更できない」との回答を示している。
 読売新聞の取材に対し、浅生所長は、「人事評価の内容は本人以外には明かせない」とした上で、「判決理由が極端に短ければ、当事者が『自分の主張を受けとめてくれたのか』と疑問に思うのは当然。当事者から不満が出れば、所長が本人に指摘することはありうる」と話す。

たとえば無断欠勤が多いというような判決とは直接関係のないような事項のことであれば裁判官の独立とは関係がない。
しかし、裁判を基礎をするとなると、どうしても裁判官の裁判所からの独立ということが問題になってしまう。
単純に判決理由が短いからというだけで、マイナス評価していいかとなると難しい。
しかも、それが法律上裁判所が判示できるかどうかということが争いになりうる以上、
判決理由が短すぎる」だけをもってマイナス評価することは難しい。
もっとも、それとは区別して問題は「当事者から不満」ということにどう応えるかは区別して検討する必要がある。
ただそうはいっても、判決に対する当事者の不満ということをどう評価するかも難しい。
判決が明らかに不当であるとか、訴訟指揮が明らかに社会通念に反するとかいうのであれば別論、
判決理由が短“すぎる”」という不満をどう考えるべきなのか?
「短“すぎる”」ということが問題なのかもしれないが、裁判官の独立ということを考えるならば、
裁判所は単なる内部問題と捉えるべき問題ではないように思う。

 一方、井上判事は「判決の長さについて定めた法律はなく、法令に違反していない裁判官をやめさせることはできないはずだ」と訴えている。
 井上判事は任官20年目で、昨年4月、横浜地裁に赴任し、交通事件などを担当。読売新聞が入手した最近の井上判事の判決文には、事実認定や法的判断のほとんどを当事者の主張の引用で済ませ、理由は十数行だけと非常に短いものがある一方、参考となる裁判例として判例雑誌で紹介されたものもある。
 判決文のうち、結論を導き出すのに必要のない傍論部分は「蛇足」で不要だというのが、井上判事の持論。昨年4月、小泉首相靖国神社参拝について福岡地裁が傍論で違憲判断を述べた際には、批判論文を週刊誌に寄稿した。
(読売新聞) - 10月31日3時7分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051031-00000101-yom-soci

短くても結論に至る理由が的確に記載されていればそれでいいし、長くても不要なことを書いてあれば意味がない。
何をもって「極端に短ければ」=「短すぎる」のかということははっきりしなければやはり裁判官の独立の点から問題が残るし、
すくなくとも当事者である井上判事に対して、説明される必要があるように感じる。


そして、この報道から1ヶ月。

判事が裁判所長の罷免請求 横浜地裁の井上裁判官
 裁判官再任に関して「判決理由が短すぎる」として減点評価したのは人事権を武器にした「裁判干渉」に当たるとして、横浜地裁井上薫裁判官(50)が29日までに、裁判官弾劾法に基づき、同地裁の浅生重機所長(63)の罷免を求める訴追請求状を国会の裁判官訴追委員会に提出した。
 現職判事が憲法が定める裁判官の独立を侵害されたとして「上司」の裁判所所長の罷免を求めたのは極めて異例。
 浅生所長は29日午前、地裁総務課を通じて「申し上げることはない」とコメントした。
 井上判事は任官20年目。判決文のうち結論を導くのに必要ない部分は「蛇足」で不要というのが持論で、著作「司法のしゃべりすぎ」で有名。昨年4月、横浜地裁に赴任し、交通事件などを担当している。
共同通信) - 11月29日14時2分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051129-00000111-kyodo-soci

共同通信が「異例」という。
井上判事がよほどの変わり者か、そうさせた浅生重機所長がよほどの変わり者ということだろう。
どっちもどっちかもしれないけれども。
司法行政権と裁判官の独立という微妙なところの線引きの問題が含まれるように思うのだけれども、
裁判所自身は、このことについてどう考えているのだろうか?いろいろとややこしい。

裁判官訴追委員会http://www.sotsui.go.jp/
弾劾裁判所http://www.dangai.go.jp/