ヒューザーが18自治体提訴(2)

ヒューザーが18自治体提訴 - 言いたい放題の続き。
弁護士費用のおおまかな見積もりは
2006-01-31
さて、書いた後に思ったのですが、損害はあるにしても、その額についてはどのように算定するんだろうということ。
昨日のコメント欄にいただきましたが、
この点、義務を履行して初めて損害が現実化する考え方もありうるでしょうが、
瑕疵担保責任よる損害賠償債務の存在自体はヒューザーは否定していませんし、
(無過失責任だから否定のしようがない)損害の存在自体は否定できないように思います。
ただし、損害賠償額そのものが確定していません(そういう意味では損害は現実化していません)から、
行政訴訟で、住民の損害賠償債権額が判断されるという奇妙な状態が生じることにはなってしまいます。
(ただし、この判断は住民ヒューザーを法的に拘束しない。)
さて、この問題について、

「責任はき違え」と批判 ヒューザー提訴に国交相
 北側一雄国土交通相は31日の閣議後の記者会見で、ヒューザーが東京都など18自治体に損害賠償を求め提訴したことに対し「主体的責任は、偽装した建築士を選んだ建築主にある。建築確認はミスがないかどうかをチェックする補完的な役割で、建築物への責任をはき違えているのではないか」と批判した。
 また、総額約139億円に上る請求額について「(提訴に必要な約2000万円とされる)印紙代がもったいないと感じた。そんな金があるのなら、マンション住民の方々に回すべきではないかと思う」とも述べた。
共同通信) - 1月31日11時38分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060131-00000110-kyodo-pol

ということは、行政には一切責任がない、ということでしょうか。
だとすれば、大臣の指摘は正しいのかもしれませんが、全く責任がないということはどうかと思いますし、
担当公務員の怠慢(過失)でヒューザーが担保責任を負うハメになったのであれば、行政は責任を負うべきで、
行政がその責任を争うのであれば、国家賠償請求訴訟で争うのは当然のことでしょう。
「建築物への責任をはき違えているのではないか」といいますが、
ヒューザー自身の責任もあるかもしれませんが、だからといって建築確認行政の責任はないのかというと疑問で、
まさにその責任問題を、ヒューザー瑕疵担保責任と混同し、はき違えているように思うのです。
もちろん、ヒューザー建築士とグルになってうまく欺いたといたとか、チェックに過失はないというのあれば、別論ですが、
そうであればその点を指摘して、責任はないというべきで、
単に「建築物への責任をはき違えている」というのであれば、無責任な建築確認行政を自任しているだけで、
そのような制度はいらないといっているようなものです。
偽装を知ってから販売分についての損害についてまで国が負うべきか、などという議論は別途可能でしょうし、
偽装発覚を遅らそうとしたヒューザーの対応には問題がありますが、
だからといってすべてヒューザーの責任かというと、別問題でしょう。
瑕疵担保責任として、買主に販売瑕疵建築物の責任を負うのは売主たるヒューザーですが、
その「瑕疵」そのものについてすべてヒューザーの自己責任になるのかというと疑問が残ります。
もっとも、その瑕疵について、行政にどれだけの責任があるのかというと判断は難しく、
損害賠償請求額自体が妥当かというと疑問があり、費用対効果からも問題があるかもしれません。
そういう意味では、一部請求にして、訴訟費用を減らすという手法もあったのではないかと思います。
ただ、破産申請がなされたようで、
もし破産ということになれば、破産管財人が訴訟を検討する機会はつくられそうです。
ちなみに、

「損賠債務は130億円」=ヒューザーめぐり住民訴え
 耐震強度偽装事件で、開発会社「ヒューザー」(東京)の破産を申し立てたマンション住民の代表が31日午後、東京都庁で会見し、「ヒューザーは約28億円の資産超過だが、住民らに少なくとも130億円の損害賠償債務がある」と主張した。資産流出を防ぎ、可能な限りの補償を得る考えも示した。
 申立人は「グランドステージ住吉」(東京都江東区)、「稲城」(稲城市)など9棟の12人。会見には6棟の代表が臨んだ。 
時事通信) - 1月31日20時1分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060131-00000108-jij-soci

被害住民の何パーセントなのかわかりませんが、

ヒューザーの破産申し立て=マンション9棟住民、資産保全で−耐震強度偽装
 耐震強度偽装事件で、開発会社「ヒューザー」(本社東京)が販売した分譲マンション9棟の住民が31日午前、東京地裁に同社の破産を申し立てた。同社の資産流出を防ぎ、補償に充てることを目的としている。
 申し立てたのは「グランドステージ」シリーズの「住吉」(東京都江東区)、「稲城」(稲城市)など、東京、千葉、神奈川のマンションを購入した計309世帯。 
時事通信) - 1月31日13時1分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060131-00000042-jij-soci

からすれば、結構な数なのではないかと思います。
そうすると、瑕疵建物の責任の多くは姉歯建築士にあるでしょうし、
ヒューザーの請求額は無茶がありすぎるようには思います。
筆者は行政に責任がないことはない(ある)だろうとは思いますので、
訴訟すること自体は批判するつもりはありませんが、その額の適正についてはちょっと疑問が残ります。


ところで、イーホームズに対しても訴訟を起こしたようですが、こっとは名誉毀損訴訟だそうです。
てっきり確認審査機関に対する役所に対するのと同種の訴訟かと思ってました。

耐震偽造イーホームズヒューザー提訴 名誉棄損で
 耐震データ偽造事件に絡み、建築主のヒューザー(東京都大田区)が31日、指定確認検査機関・イーホームズ(新宿区)のホームページの記載で名誉を傷つけられたなどとして、同社と藤田東吾社長に5億円の賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
 訴状によると、イーホームズは昨年11月18日以降、ホームページに「ヒューザーから偽造の隠ぺいを要請された」「ヒューザー社長の発言は明らかなうそ」と記載した文書を公表。藤田社長は衆院国土交通委員会参考人質疑で「隠ぺい要請」を認める発言をした。【木戸哲】
 ▽イーホームズの話 訴状を見ていないのでコメント出来ない。
 ▽藤田東吾社長の話 事実を述べてきただけなので名誉棄損のいわれはない。
毎日新聞) - 1月31日19時42分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060131-00000104-mai-soci

(発覚前に)偽装マンションを建てたというのと、(発覚後に)偽装を隠蔽したというのは違います。
真実性の法理によれば、公共の利害に関する事実ですし、公益目的も否定されないでしょうから、
真実か否かということが問題になります。
今までの報道でのいろんな人の発言を聞く限り、(少なくとも重要な部分は)真実のように思います。
名誉毀損で5億円というのも破格で、印紙代が92万円。高いとみるかやすいとみるか…。
ただ、仮に名誉毀損が成立するとしても5億はどうなのと思うので、無駄遣いは無駄遣いかな。
会社の現況を考えると、ここで名誉毀損を主張するという態度を(法律論ではなく)支持できません。