消火器詐欺に御注意。

先日知り合いの知り合いが消火器詐欺にあいました。
事例的にはまさに
http://www.seikatsu.city.nagoya.jp/soudan/pickup/jigyousya.html
に紹介されているのと同じ。
その話を聞いたのは、契約書にサインして、消火器をもってかえられた日。
翌日に消化剤をつめかえたものをもってきて、お金を払うことになっているらしい。
お金を払う前なので、詐欺だと思うなら「クーリングオフを主張して払わなければいい。」
「裁判してもらう」としかいいようがないが、
本人はきっちり確認しなかった自分も悪いとおもっているようだ。
結局、消費者センターやhttp://www.yamatoprotec.co.jp/にも相談したらしいが、
いろいろネットで調べた結果と総合すると、相手が暴力団系で、
お金を払わないと嫌がらせしてくるおそれがあるとかで、35000円払っておわらせたそうです。
まぁ、商売しているから現実に嫌がらせを受けるといろいろあるんでしょうがねぇ…。
これだけ実態がわかっているのに詐欺での捜査が行われていないのはなぜ?とか
思ったりもしますが、まぁ証拠がない、という感じでしょうか…。
(最初の売り込みでも録音できていればいいんでしょうが…)
お金を取りに来たときに録音しておけば、脅迫があった場合に証拠は残るでしょうし、
録画できるなら、他の事件の証拠にもなるんですけど…。そこまでする人はいないようです。


さて、事実上の問題はともかく、法律的に考えてみたいと思います。
まず、クーリングオフについては、会社だけでなく個人事業主も、法律上はクーリングオフできません(法26条1項1号)。

特定商取引に関する法律(昭和五十一年六月四日法律第五十七号)
(適用除外)
第二十六条  前三節の規定は、次の販売又は役務の提供で訪問販売、通信販売又は電話勧誘販売に該当するものについては、適用しない。
一  売買契約又は役務提供契約で、その申込みをした者が営業のために若しくは営業として締結するもの又は購入者若しくは役務の提供を受ける者が営業のために若しくは営業として締結するものに係る販売又は役務の提供
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%93%c1%92%e8%8f%a4%8e%e6%88%f8&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S51HO057&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

そこで狙われるのが、実際上個人とおなじ判断能力しか有しないことが多い個人事業主なのです。
つまり、個人であれば、消火器をクーリングオフすることはできますが、
この場合、「事業者だからできない」と言われてしまうのです。
そこで、対処法としては、そこが自宅兼事業所であるならば、個人としての契約と言い張るのも手です。
いざ裁判になれば、個別の事情により認定は異なるでしょうが、
例えば、消火器1本、個人名で契約とかであれば、言い張ってもいいような気がします。
一方で多量の消火器や事業所名で契約の場合であれば、事業所の契約とされてしまうかもしれませんが、
とりあえず言い張ってみるというが手です。
相手はやましいことがほとんどでしょうから、消火器さえあきらめれば、実際上踏み倒せます。
(その結果嫌がらせを受けるとかは別の話。また実際に訴えてくるリスクも否定はできないのでご注意。)
なお、この場合でも必ずその個人名でクーリングオフ内容証明を送っておきましょう。
そうでないと単なる踏み倒しですから。


では、実際に裁判になったとしましょう。
まず、裁判で個人だと認定してもらえれば、クーリングオフ内容証明を送っていれば解除が認められることになります。
では、仮に事業者であった場合にはどうか。
この点、上記法律を形式に考えれば、解除できないのですが、クーリングオフを認める高裁判例があります。
http://www.seikatsu.city.nagoya.jp/soudan/pickup/jigyousya.html
地裁(神戸地裁判決平成15年3月4日平成14年(ワ)第2729号動産引渡等請求事件):
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/E95DB5F6D59B59D249256D4E002C1066/?OpenDocument
高裁(大阪高裁判決平成15年7月30日平成15年(ネ)第1055号動産引渡等請求控訴事件):
http://www.fdma.go.jp/html/life/caution_hanrei1055.html


確認しておきますが、この裁判は、販売者側が払えと訴えたものではなく、
消費者側(法人)で、預けた消火器をかえせという裁判をおこしたものです。
ここからも販売者が裁判を使うことは少ないということがいえそうです。
判決の詳細は、短いですし判決文を読んでもしれていますが、

 ……本件記録によれば本件取引が法にいう訪問販売に該当し,取引対象商品が指定商品に該当することが認められ,同認定に反する証拠はない。
 そして,原告が個人ではなく株式会社であることは被告の主張するとおりであるが,原告は各種自動車の販売,修理及びそれに付随するサービス等を業とする会社であって,消火器の充填薬剤の購入が営業のためもしくは営業としての購入でないことが明らかであるから,法26条1項1号(適用除外の規定)は本件に適用されない。
 被告が法4条,5条に規定する書面を原告に交付していないことは当事者間に争いがない。
 そして,原告が平成14年12月10日被告に送達された本件訴状をもって,法9条に基づきクーリング・オフの意思表示をしたことは本件記録上明らかである。
 以上によれば,クーリング・オフを理由とする原告の主張は理由がある。
(地裁判決)

という判断をしています。
つまり、法人ではあるが、消費者は自動車修理屋さんで「営業としての購入でない」ので、適用されない、と。
この点について、高裁判決は次のように補足して説明をしている。

 控訴人(※販売者)は、本件取引に法26条1項1号の適用があるというので検討するに、同法(平成12年に改正される前は訪間販売等に関する法律)は、昭和63年法律第43号による改正前は、訪間販売等における契約の申込みの撤回等についての適用を除外する契約として、「売買契約でその申込みをした者又は購入者のために商行為となるものに係る販売」と規定されていたのであるが、上記改正によって「売買契約又は役務提供契約で、その申込みをした者が営業のために若しくは営業として締結するもの又は購入者若しくは役務の提供を受ける者が営業のために若しくは営業として締結するものに係る販売又は役務の提供」となったものである。これによれば、上記改正の趣旨は、商行為に該当する販売又は役務の提供であっても、申込みをした者、購入者若しくは役務の提供を受ける者にとって、営業のために若しくは営業として締結するものでない販売又は役務の提供は、除外事由としない趣旨であることが明白である。そこで、本件取引についてみるに、被控訴人は、各種自動車の販売、修理及びそれに付随するサービス等を業とする会杜であって、消火器を営業の対象とする会杜ではないから…、消火器薬剤充填整備、点検作業等の実施契約(本件取引)が営業のため若しくは営業として締結されたということはできない。消防法上、被控訴人の事務所等に消火器を設備することが必要とされているとしても、これは消防法の目的から要求されるものであって、これによって本件取引を営業のため若しくは営業として締結されたものということはできない。
(※)及び下線は筆者による。

つまり、消火器そのものを扱う事業でない限りはクーリングオフできるというものである。
最高裁判決でないのが実務上見劣りしてしまうが、まぁ十分な判断かと。
(もっとも、特に防火に配慮するべき事業については、営業として締結するという余地はあるようにも思われる。)
ちなみに、この事件は訪問販売で必要な法4条、5条に規定する書面を消費者に交付されていなかったので、
クーリングオフの起算点が存在しないため、訴状でクーリング・オフの意思表示が認められた。

例えば、「申込者等が第五条の書面を受領した日(その日前に第四条の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過したとき。」と規定されている。

おそらく販売者側はこの判決を知っているので、今では法4条、5条に規定する書面を消費者に交付しているので、
きちんと期間内にクーリング・オフの意思表示を内容証明で送付しておく必要があるように思われる。


ちなみに蛇足(司法のしゃべりすぎ参照)だが、

 念のために付言すると、証拠…並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人は、種々の事業所等に出入業者を装う等の方法で訪間し、消火器点検薬剤充填の業務を行っている者であるが、平成14年10月末ころ、女性従業員に被控訴人の事務所に電話させ、「Aです。いつもお世話になっております。消火器の充填の期日が過ぎております。こちらから伺いますので、いつごろがよろしいでしょうか。」と、被控訴人の出入業者を装って電話をさせたこと、電話を受けた被控訴人従業員Cは、その電話を従前から被控訴人と取引のある業者と誤信し、「期限が過ぎているようでしたら来てください。」と答えたこと、そこで、控訴人が雇用する男性2人が、同年11月1日ころ、控訴人の事務所を訪れ、上記のように錯誤に陥っているCに、「Aですが、引き取りに来ました。」と言い、本件消火器を運び出し、Cが上記の錯誤に陥っていることを知りながら、控訴人が従前からの取引業者でないことを告げず、その錯誤を利用して、「引き上げておきましたので、ここにサインを下さい。」と告げて、従前からの取引業者よりも非常に高額の作業費等を計上の消防用設備点検作業契約書に署名させたことを認めることができるが?これは詐歎に該当するということができる。そして、被控訴人が、本件取引を詐欺により取り消す旨の意思表示をしたことは当裁判所に顕著である。してみれば、本件取引は、法によって申込みの撤回が認められないとしても、その効力を失ったものである。」

と詐欺取消しについても判断している。
判断したことに対する是非はともかくとして、詐欺と認めているので、
事案にもよるが、詐欺取消もできる、ということを確認しておく。


ということで、このような場合どうすべきか。
お金を払う前であれば、
http://www.seikatsu.city.nagoya.jp/soudan/pickup/jigyousya.html
のサイトのように、払わないことが大事です。
とにかく、交渉して、妥協点を見つけるべき。
ただし、相手が納得しない限り裁判になりうることはやむを得ません。


なお、相手がくるのがわかっている場合、交渉の際には、ボイスレコーダー等をお持ちの場合、
話し合いを録音しておくのも手です。(ビデオ撮影もなおよし)
何かあった場合の証拠になります。不利に働くこともありますが…。
脅迫的辞言を用いた場合には脅迫罪の証拠にもなります。
なお、その場で合意解除に至った場合は、かならず書面で残しましょう。
クーリング・オフを認めます、と言った場合でも、改めて確認の内容証明を送る方が無難でしょう。
一部支払で手をうった場合(和解)も領収証だけでなく、
その額ですべての支払いが済んだことを確認できるようにしておければ、なおいいと思います。
実際、その場合にはあとあと何も言わないとは思いますが…。


最後になりましたが、以上はあくまで私見です。
個別の事情によるところも多いですし、本当にお困りで来られた方は、弁護士に相談しましょう。
この通りやって裁判に負けたとかいわれても一切責任は負えません。