在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件判決(1)

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在外邦人の選挙権制限、最高裁違憲判決
 海外に住む日本人の選挙権を制限している公職選挙法の規定が「普通選挙を保障した憲法に反する」として、在外邦人ら13人が、国を相手に選挙権があることの確認や1人当たり5万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が14日、最高裁大法廷(裁判長・町田顕長官)であった。
 大法廷は、請求を退けた2審・東京高裁判決を破棄し、公選法違憲と判断して選挙権を確認するとともに、国に1人当たり5000円の賠償を命じた。原告の逆転勝訴が確定した。
 最高裁が法律の規定を違憲と判断したのは、2002年の郵便法を巡る違憲判決以来、戦後7件目。立法不作為(怠慢)による国家賠償を最高裁が命じたのは戦後初。国は次回の国政選挙までに公選法改正を迫られることになり、今後の憲法訴訟と選挙制度の双方に多大な影響を与えそうだ。
(読売新聞) - 9月14日15時30分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050914-00000006-yom-soci

上は読売新聞の記事。
今回の判決の詳細な分析は次回以降ということにして、まずは判決要旨だけ確認。

最大判平成17年9月14日
平成13年(行ツ)第82号、平成13年(行ヒ)第76号、平成13年(行ツ)第83号、平成13年(行ヒ)第77号
在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件
http://courtdomino.courts.go.jp/judge.nsf/dc6df38c7aabdcb149256a6a00167303/8e94e6cbb1b3647e4925707c002b1517?OpenDocument


要旨:
1 平成10年法律第47号による改正前の公職選挙法が,平成8年10月20日に実施された衆議院議員の総選挙当時,在外国民(国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民)の投票を全く認めていなかったことは,憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書に違反する
2 公職選挙法附則8項の規定のうち,在外国民に国政選挙における選挙権の行使を認める制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は,
遅くとも本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員通常選挙の時点においては,憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書に違反する
3 在外国民である上告人らが次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えは,適法な訴えである
4 在外国民である上告人らは,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にある
5 国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受ける場合
6 平成8年10月20日に実施された衆議院議員の総選挙までに在外国民に国政選挙における選挙権の行使を認めるための立法措置が執られなかったことについて国家賠償請求
が認容された事例

記事にもあるが、郵便法損害賠償免除制限規定違憲判決以来の法令違憲判決がでた。

郵便法違憲判決:最大判平成14年9月11日平成11年(オ)第1767号損害賠償請求事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/F8BC327DA4C9BE4149256CFA000590E6?OPENDOCUMENT
要旨:
1 郵便法68条及び73条の規定のうち,書留郵便物について,郵便の業務に従事する者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に,不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し,又は制限している部分は,憲法17条に違反する。
2 郵便法68条及び73条の規定のうち,特別送達郵便物について,郵便の業務に従事する者の故意又は過失によって損害が生じた場合に,国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免除し,又は制限している部分は,憲法17条に違反する。
(1,2につき,補足意見及び意見がある。)

実に、2年ぶりの法令違憲判決である。
ちなみに、判決末尾をみていただければわかるが、津野修判事は参加していない。

(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 福田 博 裁判官 濱田邦夫 裁判官 横尾和子 裁判官 上田豊三 裁判官 滝井繁男 裁判官 藤田宙靖 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 徳治 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴 裁判官 今井 功 裁判官 中川了滋 裁判官 堀籠幸男)

昭和61年 内閣法制局第三部長
平成 4年 内閣法制局第一部長
   8年 内閣法制次長
  11年 内閣法制局長官(14年退官)
http://courtdomino2.courts.go.jp/shokai_J.nsf/View01/11?OpenDocument

ということで、まさにこの法改正に関与していていたからであろうか。
平成16年11月24日(水曜日)開催の第161回国会参議院憲法調査会で、山下栄一議員は、

我が国では、内閣法制局により内閣の法案提出前に詳細な違憲性のチェックが行われ、違憲判断が下される可能性が非常に低いという状況もあります。憲法裁判所を作っても、違憲でないものを違憲とするはずがなく、合憲性を迅速に追認する意味しかないことになりかねません。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/kenpou/keika_g/161_05g.htm

と述べているのだが…。
ちなみに、横尾和子裁判官と上田豊三裁判官の反対意見がある。
また、泉徳治裁判官は判示第4(国家賠償請求の可否)についてのみ反対意見である。
ちょっとかわった理由だけど。
なお、合議を構成したのは8月2日に任官した古田佑紀裁判官ではなく、8月1日に退官した福田博裁判官。


記事にもあるように、7件目の法令違憲判決で、過去の法令違憲判決(5種6件)を示しておくと、

最大判平成14年9月11日 郵便法損害賠償免除制限規定違憲判決
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/F8BC327DA4C9BE4149256CFA000590E6?OPENDOCUMENT
最大判昭和62年4月22日 森林法共有物分割制限規定違憲判決
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/B1A8EB0C24DC568049256A8500311F1B?OPENDOCUMENT
最大判昭和60年7月17日 公職選挙法衆議院議員定数規定違憲判決
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/81C357C80C7424F849256A8500311F4F?OPENDOCUMENT
最大判昭和51年4月14日 公職選挙法衆議院議員定数規定違憲判決
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/88082A9F926186C049256A85003120B6?OPENDOCUMENT
最大判昭和50年4月30日 薬事法薬局開設距離制限規定違憲判決
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/B6B75A00313F026149256A85003120E9?OPENDOCUMENT
最大判昭和48年4月4日 刑法尊属殺重罰規定違憲判決
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/2B5FB6C0167B5A7B49256A850030AB3E?OPENDOCUMENT

となる。
また、立法不作為に関する判例・裁判例として、

熊本地判平成13年5月11日 ハンセン病訴訟
<裁判所ホームページ未登載 判例時報1748号30頁>
最一小判昭和60年11月21日 公職選挙法在宅投票制度廃止事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/13A106239429E1EE49256A8500311F49?OPENDOCUMENT

表現の自由との関連で重大な疑義のあるインターネットに選挙活動についての改正とともに、
早急に改正すべき課題である。